研究概要 |
本年度は,将来開発されるべき熱ノイズを利用する微小機械の備えるべき条件・エネルギー変換の原理に関して研究した.今日の人工的なマイクロ・ナノマシンは,マクロ機械のエネルギー変換原理を踏襲するものであり,単に寸法を縮小のみにすぎなかった.しかし,中間領域に存在する分子機械には,独自の動作原理がある事が示された.この原理とは,確率共鳴と呼ばれるげんしょうであり,機械システム系が熱ノイズと共振現象を起こす事により,熱源から機械系にエネルギー移行が生じる.との現象は,中間領域では,極めて一般的な現象であり,至る所し存在している.生物では,細胞膜のイオン透過性の上昇,神経細胞の感度の上昇とうに見られる.我々は,ランジュバン方程式を基礎に据え,熱ノイズを利用すし,一方向に運動する微小機械の条件を導いた.そのためには,(1)機械システム系と熱ノイズとの間に確率共鳴現象の存在,(2)環境又は,機械システム系に非対称構造の存在,(3)機械システム系が,マイクロ〜サブマイクロの寸法を持つ事が重要である.また,確率共鳴を起こすには,系に散逸構造の存在と機械システム系の適切な弾性定数が重要である.さらに,この原理で動く人工模型としてStochastic Incleined Rods Model(SIRM)を提唱した.このSIRMは,本体から斜めに鋼鉄製の共振体が突き出た構造を持っており,これが熱ノイズ中の10E11rad/sの周波数と共鳴して熱源から共振体へエネルギー移行が起こるのだ.さらに,確率共鳴を等して機械システム系に得られるエネルギーは,1分子のATPの10倍程度と見積もられ,熱ノイズのみでも十分に微小機械系を駆動する事が可能である.
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