研究概要 |
私たちが1994年に初めて見つけた糊代を持ったタンパク質(トラッピンと総称)に関する基礎及び応用研究の一環として,螢光性のセメントインを調整しセメントインの付加価値を高めるとともに,糊代部分すなわちセメントインを遺伝子工学的に生産し,その二次構造を推定した。(1)蛍光性セメントイン分子の作製:これまでの研究で,セメントインは期待どおり非常に優れたタンパク質の接着剤になることがわかっているが,さらにセメントイン分子を標識することが出来れば利用価値は格段に上がる。そこで,最近よく利用されているクラゲ由来の蛍光性タンパク質GFP(Green Fluorescent Protein)及びその改良型との融合タンパク質として発現させることを試み,蛍光性のセメントインを作ることに成功した。(2)セメントインの二次構造:糊代として働くセメントイン領域は,一次構造上は,LysとGlnに富む繰り返し構造をとっていることが明らかになっているが,より高次の構造については不明である。そこで,大腸菌で生産したセメントインを用いて二次構造の決定をおこなった。立体構造に関する情報は,セメントインの接着能を理解し,応用に役立てるためには極めて重要である。まず,セメントインを大腸菌でマルトース結合タンパク質との融合タンパク質として発現させ,セメントイン部分のみを切り離し精製した後に,円偏光二色性(CDスペクトル)を測定することによって,二次構造であるαヘリックス,β構造の含量を求めたところ,予想外に,特徴的な二次構造は持たず,ランダムコイル構造をとっていることが判明した。最初はαヘリックス構造が主ではないかと予想していたが,よく考えてみると,ランダムコイルの方がより効率よくタンパク質を架橋するのに適した構造といえそうである。
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