研究概要 |
ガンなどの疾病のためにやむなく直腸や結腸を切除した場合、腹壁を通って体外に排泄物(便など)がでるようにつくられた排泄孔、すなわち人工肛門(ストーマ)の形成が行われる。従来は、腸管を用いて形成されていたが、開口部の形によってそのケアの程度が大きく異なり、社会生活にも影響がでるほどであった。このような背景から、本研究では温度変化に対して、大きな体積相転移を引き起こす温度応答性ハイドロゲルを利用した完全人工型の人工肛門の創製を目指した。人工肛門を作成するには、粘度が種々異なる消化物の糞を止めるだけの強度と、極めて短時間の開閉が必要である。本研究では、素早い開閉が可能な、鋭敏に体積相転移を引き起こすハイドロゲルの分子構築構造からの検討とゲルの強度を出すためのハイブリッド化の検討を行った。 温度応答性高分子として汎用されているポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)の3次元網目中に、ポリエチレングリコール連鎖をグラフトした新規な分子構築構造を有するPIPAAmハイドロゲルを調製した。このハイドロゲルはPIPAAmホモポリマーからなるゲル特有のゲル表面に形成するスキン構造の形成を抑制し、温度変化に対して素早い体積変化を引き起こすことを明らかにした。さらに、相転移温度がPIPAAmホモポリマーよりも高いIPAAmとN,N-ジメチルアクリルアミド共重合体をグラフト鎖として有するPIPAAmハイドロゲルを調製した。グラフト鎖が全体の網目の相転移温度よりも高いために、温度がグラフト鎖の相転移温度よりも低く3次元網目の相転移温度よりも高い場合は、ゲルの収縮は抑制されるが、グラフト鎖の相転移温度以上に変化させると、グラフト鎖の収縮に伴ってゲル全体の収縮が加速的に引き起こされるという、新しい概念の収縮加速メカニズムの妥当性を評価した。シリコーンゴム上にラジカル重合が可能な重合性基を効率よく導入し、この表面上でゲルを作成することにより、ハイドロゲルが共有結合したハイブリッド材料の調製に成功した。
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