研究概要 |
研究期間2年目の今年度は,昨年度の成果をふまえながら,哲学・思想による技術排除の姿勢の根の深さを確認する方向で作業を進めた.その一環として,ポスト構造主義の思想家として知られるデリダ JacquesDerridaが,プラトンからハイデガ-にいたる著者について行っている読解を,自然/技術,自然/文化の観点から読み直した.これはもっぱら,今回の課題について理論化を始めるためである. この作業からも,ヨーロッパにおける哲学史・文化史の「ギリシアの奇跡」に帰せられた精神性の問題の重要性が浮き彫りになった.第一次世界大戦直後,ヴァレリーPaul Valeryがヨーロッパの危機という観点から発表した「精神の危機」では,ギリシアから受け継がれた独自の精神が生み出したはずの技術がヨーロッパの外部でも採用され,ヨーロッパの優勢を脅かすようになるという主張が展開されている.今日でも聞かれるこうした主張は,匿名な技術のもつ不気味さと非西洋に対する警戒の相乗効果が見られる好例であろう. また,前年度より引き続きアーレントHannah Arendtの一種の復古性について考えた.この思想家は,フランス系ではないが,1980年代以来,フランスで盛んに研究されており,「非西洋」に対する視点というテーマからも不可欠である.アーレントの復古性の一端は,「現代史と〈永遠の哲学〉」(『歴史の文法』東京大学出版会,1997年,257頁-269頁所収)にまとめてある.また,復古性の一側面として今回の課題に直接に関わってくるのは「技術嫌悪」であるが,この点については「テクノフォビアの思想--ハンナ・アーレントと政治の救済」(『現代思想』25-8号,240頁-249頁)という形で発表した.
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