アウグスティヌスにおける真理概念の形成過程に於いてきわめて重要な位置を占めると予想される『教師論』を分析した結果、次のことが明らかになった。『教師論』に記された対話の前半部分においてアウグスティヌスが前提としている真理観は、最初期の著作『アカデミア派駁論』等と共通するものであり、ヘレニズム期の哲学、あるいはさらにギリシア哲学の真理観と共通するものである。すなわち、真理とはそれによって真なる認識が成立する根拠であると考えられている。このような真理観に立つなら、偽なる認識において真理の役割は一切認められない。真理からもっとも遠いのが偽なる認識であると考えられているからである。ところが『教師論』の最後で述べられる真理論によれば、真理とはそれによってことばの真偽を判定する基準である。ここで言う「ことば」とは命題の形をとったことばも含め、何ごとかについて述べたことばである。真理とは、このようなことばについて「真である」と判断する規準であるとともに、「偽である」という判断する規準でもあると考えられている。アウグスティヌスが真理をこのように考えることができたのは、彼がことがらの認識と認識から生ずる判断とを区別しているからである。このような区別が感覚的認識と知性的認識とを区別する新プラトン主義の哲学の影響を受けていることは確かである。しかしここには同時に、人間の判断を真理に対し相対化するアウグスティヌスの独創的な着眼点の萌芽が認められることも忘れてはならない。すなわち、アウグスティヌスは、あることがらについて真偽の判断ができるということと、その判断が正しいこととを区別し、たとえ誤った判断であっても、判断である限り何らかの仕方で「真理」を根拠としていると考えているのである。
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