中央アジアは東西文化をつなぐ交通の要所として国際的な文化が栄えたところである。また様々な民族の興亡に従って展開された宗教も、仏教、マニ教、キリスト教、イスラム教といった世界宗教のタピストリーである。本研究はこのような錯綜した宗教文化の代表として、中央アジア仏教の展開を四らかにしようというものである。 その手段として、なべてイスラム化した現在の中央アジアの根底にあるもの、すなわち、多くの仏教遺跡から発見された仏教文献に焦点を当て、その中心となるサンスクリット文献を研究対象とするものである。これらの写本を調査し整理することが、第一の目的である。さらに、それらの文献研究から浮かんでくる中央アジア仏教の特質を明らかにすることが第二の目的である。研究成果報告書ではこの二つの問題を検討した。 まず、最初に中央アジア仏教研究の概観と、写本を中心とした研究の意味を明らかにし、現在の研究状況と今後の課題を概観した。さらに、まとめ上げた写本類の中から、実際に般若経などのいくつかの写本を取り上げ、漢訳やチベット語訳などと比較して詳細に検討した。このことによって具体的に中央アジア仏教の特質を指摘し、その歴史的展開を解明することを目指した。これらは大体、以下の二つに纏められる。 1) 中央アジア仏教の独自性 インド仏教からインド周辺の地域に広まったという単なる中継点としての役割ではなく、多くの僧侶を輩出し、部派仏教と大乗仏教のセンターとして機能していた。 2) 中央アジア仏教で展開した宗教思想 法滅思想のような大乗仏教における根本的教理、及びその根拠となる経典がこの地域で実際に成立した。一方で、インド本土で成立した多くの経典も、中央アジアで用いられた言語に翻訳されることによって、新たな意義を付与された。
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