昨年度に引き続き、オリッサ州カタック地区から出土した図像資料を中心に画像データベースの構築をすすめ、およそ600点の作品をデータベース化した。作品の主題、規模、表現方法、年代、出土地、素材、様式等に関するデータを整理し、カタック地区の密教図像の全体の傾向を解明した。 このうち、重要な菩薩である弥勒、金剛手、金剛薩〓の3種類に関しては、それぞれ図像上の特徴を確定するとともに、主題や様式の多様化についても明らかにし、学術論文として公表した。 また、密教美術を生みだした背景として、カタック地区に流行していた密教がいかなるものであったかを考察するために、八大菩薩と不空羂索観音について重点的に研究を行った。その結果、インドの初期・中期密教の中でユニークな位置をしめる『不空羂索神変真言経』と密接な関係があることが明らかとなった。不空羂索観音に関しては、同経に記載された補陀洛山の情景が、実際の作品の構成に反映されている。また、八大菩薩については、これまで等閑視されてきた周囲の人物像が、同経のあげる八大菩薩の眷属神の一部に合致している。これらの尊格はわが国の「胎蔵図様」や「胎蔵旧図様」にも見られ、わが国の密教美術の成立にも関係する。典拠となる『不空羂索神変真言経』は従来チベット訳テキストと漢訳との間でかなり大きな違いがあることが指摘されてきた。一方、原典であるサンスクリット写本の研究もすすめられつつある。経典の成立過程にも視野に入れながら、カタック地区の密教美術のイコノロジー的な研究をすすめていく予定である。 なお、本年度の研究成果は学術論文の他に、国立民族学博物館の共同研究会と美術史学会例会において口頭発表を行った。
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