本研究は1995年3月と1996年1月の2度にわたっておこなったインド・オリッサ州カタック地区における仏教遺跡の現地調査にもとづいている。このとき収集した図像資料を中心にデータベース化をすすめ、これとあわせて各作品の主題、規模、表現方法、年代、出土地、素材、様式等に関する情報を整理し、全体の傾向を明らかにした。とくに、仏や観音、文殊などの出土数の多い尊像については、各尊格の特徴の確定とともに、主題や様式の多様性についても考察を行った。さらにパーラ朝の出土品との比較を行い、両者の図像体系の類似性や相違点から、インドの密教図像の総体的な考察をすすめた。 本研究の成果はいくつかの学術論文と図書で公表してきたが、とくに「オリッサ州カタック地区の密教美術」(国立民族学博物館研究報告 第23巻第2号所収)において、主要な3遺跡の現状を伝えるとともに、遺跡ごとの出土品の傾向、主要な尊格の図像上の特徴の解明を行った。また未公開資料を含む160点の写真図版を添付することで、この地区の仏教美術の全体像を提示することができた。いくつかの尊格については、図像上の特徴を中心に考察を行い、詳細な作例リストとともに個別に論文を発表した。さらに「研究報告書」には、オリッサの尊像の中でとくに注目される四臂観音立像と八大菩薩単独像とに関する考察を収録した。 今後はオリッサ州の密教美術に関するさらに詳細な研究とともに、インドのその他の地域の密教美術をはじめ、東南アジア、ネパール、チベットなどの周辺諸地域の密教美術との比較研究が求められる。本研究によって、そのための基礎的な情報を提供することが可能になった。
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