1996年10月22日から11月4日までの約2週間、ミャンマーのヤンゴン市を中心に現地調査をおこない、あわせて関連資料の文献収集につとめた。この調査によって、当初の研究目的である仏教伝道勧告執行委員会の組織や運営を明らかにするために必要な資料や情報を可能なかぎり入手できたと考えている。なかでも宗教省伝道推進局によるチン、カチンなどの少数民族への支援活動の実際の一端についての具体的情報が得られたのは大きい成果だったといってよいだろう。この調査結果については今年6月に開かれる日本印度学仏教学会において研究発表をおこなう予定であるが、この調査を通じてビルマの伝道史をさらに深く掘り起こしてみる必要性を痛感した。というのもこのような伝道組織が誕生した背景には植民地時代のイギリスの統治政策と深くかかわっていたと考えるべきいくつかの歴史的事実がうかびあがってきたからである。イギリスがビルマ族と非ビルマ族(すなわち少数民族)とを政治的に分断するためにとった宗教政策が結果的に仏教僧を山地民族への伝道活動へ向かわせることとなり、こうした流れが仏教伝道勧告執行委員会の前身である山地伝道協会を経て、今日の仏教伝道勧告執行委員会に受け継がれてきていると考えられているからである。しかしその山地伝道協会も宗教省に伝道推進局が新設されるとその役目は終えたとして仏教伝道勧告執行委員会に改組されてしまったのであるがこれら両組織の違いを比較対照して各々の特質を明らかにすることも本研究に課せられた一つの課題と考える。
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