本年度はまず予定通り、従来研究を進めてきた諸テーマ全体にわたって資料収集を行うとともに、新たな一次資料の発見に努めた。特に秋の滞独の際には、近世・近代ドイツにおける自然神性に関わる宗教運動体の一次資料の発掘に努めた。 研究面においては、3年間の予定として当初掲げた4つのテーマのうち、20世紀民族主義宗教思想における自然神論、およびニュー・サイエンス思想における自然と神性、という2点に重点を置き、研究を行った。前者のテーマについては、ワイマル共和国期ドイツにおける「ゲルマン主義宗教運動」の担い手の一人であったE・ベルクマンの思想をとりあげ、ベルクマンおよびその周辺の思想潮流においていかに「自然」がある種の救済論的意味あいを帯びたか、またそうした自然理念が、「民族」(Volk)理念とどのように結合し、固有の救済論を作り上げたかを考えた。こうした救済論は、近代におけるキリスト教の影響力喪失と、近代社会の世俗化の間にあって、ある種の文化批判としての近代的救済宗教を創出する試みであった。第2の主題であるニュー・エイジの宗教的ヴィジョンも、ある意味では同様の問題布置のもとにあり、エスタブリッシュメントの宗教的救済像の無力化と、社会の脱近代化の傾向を受けて、シンクレティスティックな救済ヴィジョンを提示することが、ニュー・エイジの戦略であった。いずれの例をとっても、自然への神性の「転移」とも言うべきものが、近代およびポスト近代の問題と深く関わってくることは明らかであり、本研究の主題が、近世以降の精神史と社会史の核心的問題と深く関わっていることが、あらためて確認された。
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