資料収集については、本年度は従来研究を進めてきた諸テーマ全体にわたって資料収集を行うとともに、新たな一次資料の発見に努めた。 研究面においては、まず当初掲げた4つのテーマのうち、20世紀民族主義宗教運動に関して、古ゲルマン伝承であるエッダの自然的・民族主義的解釈の歴史と運動を取り上げた。特に重点的に研究対象としたのはO・S・ロイタ-であるが、ロイタ-においては、昨年度取り上げたベルクマンと同様、キリスト教の拒絶のうえに、「自然」にある種の救済論的意味あいが託され、またそうした自然理念が「民族」(Volk)理念と結合され、固有の救済論を作り上げている。こうした救済論は、やはり近代におけるキリスト教の影響力喪失と、近代社会の世俗化の間にあって、ある種の文化批判としての近代的救済宗教を創出する試みであった。 後半期のもうひとつの研究主題として浮かび上がってきたのは、啓蒙期以来のいわゆる「自然的宗教」論と自然的神性との関係であった。自然的宗教論は客体的な神信仰から人間に内在する宗教性への宗教的強調点の意向を意味するが、近世においてはこの人間的自然は外的自然と通約するものとして聖化されていた。こうした連関はロマン主義の終焉とともに消失したかに見えたが、前世紀末においては進化論や社会ダ-ウィン主義などとも関わり、新たな仕方でこの連関が語られるに至った。この問題は、日本の明治期における宗教論と宗教学のヴィジョンとも直結するものである。この点をふまえて、ワシントンD・Cにおけるアジア研究学会の1997年度年次総会では、明治期宗教学の生成と自然的宗教の問題にかかわる研究発表を行った。
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