本年度は、パ-シ-の系譜史料のコンピュータによる分析を行った。分析の材料となる中心的系譜史料は、14世紀から19世紀後半にかけてナオサリに実在したゾロアスター教徒の人名と間柄を記述した史料と日記資料である。当該系譜史料が網羅しえない領域は、フィールドワークによって収集したデータで補完し、そのデータも分析の材料とした パ-シ-は個人、家族、親族、集団を単位として、一年の月・日・5刻限を特定して聖なる火に香木を捧げる。この形態はマ-チと呼ばれている。 ところで、ナオサリにおいて最も等級の高い聖火のマ-チの資料に記載された姓に関して追跡を進めると、カンガとマサ-ニの頻出の度合いが極めて高い事実が取り出せた。特に、5月47%と12月38%が比較的低い割合を示しているが、その他の月は6割以上の数値を示しており、両者を合わせた各月の平均値は62%となっている。 ナオサリの聖火は、日時・刻限を特定して、個人、あるいは家族を単位として香木が加えられることによって保持されているが、家族を姓で追跡すると、そこには特定の家族が主体となって聖なる火を実質的に保持している事実が取り出せた。 そこで、カンガとマサ-ニをパ-シ-の系譜資料で遡及していくとさらにそこに新しい事実が発見された。すなわち、カンガに関してはカカ・ドゥンパル、マサ-ニに関してはカカ・パールン、とチャンダ・ファレドゥーンと呼ばれる出自集団の始祖にぶつかるのである。言い換えると、聖火はカカ・パールン、カカ・ドゥンパル、チャンダ・ファレドゥーンと呼ばれる出自集団で維持されており、アシャ・フェレドゥーンやマヒア-・ファレドゥーンと称される出自集団によっては維持されてはいない事実を抽出した。
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