本年度も昨年度に引き続き、パ-シ-の系譜史料のコンピューターによる分析を行った。分析の材料となる中心的系譜史料は、14世紀から19世紀後半にかけてナオサリに実在したゾロアスター教徒の人名と間柄を記述した史料と日記資料である。当該系譜史料が網羅しえない領域な、昨年夏期に一ヶ月余にわたって実施したフィールドワークによって収集したデータで補完し、そのデータも分析の材料とした。 パ-シ-の聖なる火は、現実の生活において、どのような人たちによってどのように保持されてきているのか。聖なる火の保持の場面には、パ-シ-の集団構造のどの側面がどのように関与し、また反映されているのか。本年度はこれらの問題を明らかにし、学術大会において二度その成果を口頭発表するとともに、二つの学術論文の形でも公表した。 1825年のマ-チ(聖なる火に香木を捧げる行為)の具体的事例を分析することによって、また、マ-チを行っているパ-シ-をグジャラ-ティ系譜史料で追跡することによって、次のような結果を取り出すことができた。ナウサリで最も等級の高い聖なる火ア-タシュ・ベ-ラーム(Atas Bahram)のマ-チに関しては、祭司系譜を出自とするパ-シ-が中心となって行われてきている。個人の断面でも集団の断面でも、祭司系譜を出自とする特定の家族(姓)が、また、祭司系譜の中でもバガリア-(Bhagaria)と呼ばれるれ特定の系譜に属する集団が、ア-タシュ・ベ-ラームに香木を捧げることによって聖なる火は永続的に燃えつづけてきているのである。
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