本年度はゾロアスター教徒の時間感覚と空間感覚に関する資料を中心に分析を進めた。具体的には、時間感覚と空間感覚に関して収集した300の作文資料(有意味図版への反応を記述した文章)とフィールドワークのデータをコンピュータ操作によって分析した。 パーシーの現実の生活場面における時間感覚については、ガーハンバール(gahambar)が最も重要な意味を持っている。ガーハンバールは本来は年6度の季節祭の機能が強かったのであるが、パーシーがインドへの移住にともなって、生業形態を農業から商業へと移行させたことと関連して、その本来の意味と機能に変化が引き起こされてきている。 調査地ナウサリのパーシーは現在新年を8月に祝うが、この新年はガーハンバールの一つと重なっている。新年は祖霊(fravasi)が帰還する時期と考えられているために、各家で祖霊を迎え、もてなし、送り出す儀礼が行われる。その儀礼においては、二人の祭司が過去帳にしたがって、各家とそれに系譜の上で関わる死者の名前を呼び出し、それらの祖霊に特定の供え物と祈りを捧げて供養する。生と死に関わるこの儀礼慣行の意味がパーシー集団において重要であるため、彼らに独特の時間感覚を保持させてきている。また、ガーハンバールは善行を行う機会であり、パーシーではその運用が信託でなされる事例が多い。特に、信託(trust)の形で行われる善行が、故人や生者の霊魂の救済を目的としていることに注目すべきである。 空間感覚に関しては、儀礼慣習との関連で祭祀空間感覚を、死体悪魔との関連で五方空間感覚を取り出すことができたが、その他については十分な分析ができなかった。今後の重要な課題として引き続き取り組んでゆく。
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