本年度は、三年にわたる研究の最終年度にあたるため、成果のとりまとめを目指して研究を進めた。基本的には、中世神道研究の過去を蓄積を回顧し、現状の問題点を意識化することをまず目指した。また、神仏という概念の実体を確認するために、教義の比較ではなく、具体的な現実の水準での信仰の在り方を理解することが重要である。そこで説経節の「小栗判官」を対象として、中世の具体的な信仰の形を分析した。また、仏教の信仰における神話の一例として親鸞の教説を考察した。 現在の神仏の研究が従来の宗派、教派を単位とする研究を克服し、複雑に重なり合った形態を解明することでは一致している。この点は、日本研究全体に見られる基本的な傾向の一つである。しかし、その一方で重要な問題として浮上してくる特徴は次の点である。すなわち、研究が対象とする事象のもつ興味深い特質、形態を個別的に関する理解は展開しているが、それらを俯瞰的に理解するための統一的な視点が確立されていないため、全体を見渡した理解が不明瞭になることである。個々の研究が全体の中でどのような位置にあるのかも把握しにくい。そのため、研究の進展が、かえって混乱を深めているように見えてしまうのである。 この点を克服するためには、単に個別的な事象の解明に努力するだけでは不十分であることはいうまでもない。そのために有効な視点の一つとして次のようなものが考えられる。超越的なるものにかかわり、日常的な因果論では説明のつかない説明を行う言説を神話とよぶなら、中世において生まれた神話の特質を明らかにすることが必要である。また、その前提として、文化全体における神話の意味を再検討する必要があろう。そういう視点から研究に着手する場合の問題を、北畠親房研究を例として考えた。
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