(1)初年度はつとめて関係文献の調査・収集に専念した。資料採訪した主な図書館は、国会図書館、東京大学、大阪府立図書館、大谷大学、九州大学、熊本大学などである。殊に大谷大学図書館において多数の関連文献を調査し、円通、円煕などのよそでは見られない著述を収集することができた。 (2)祐譲『立世阿毘雲曇論日月行品』(大谷大学図書館蔵)では、「克伯尓」と記してコペルニクスに言及しているし、その他ティコ、ケプラーなどの西洋天文学者の名前も散見される、さらに、「馬児珍日く」とベンジジャミ・マ-ティンに触れ、これは吉雄常三の『遠西観象図説』を参照したからだろうし、『奇児全書』を記すから、これは志筑忠雄の『歴象新書』を参考していたことになり、闌学系書物を研究していたことが判明する。円通以外にも、蘭学系天文学書を参照していた一つの証拠であり、他の人々のケースの発掘が今後の課題である。(3)イエズス会士系の書物は多くの梵暦推進派が参照していたが、月食の原因たる地影説を円通(『内外天文弁』)らは批判していた。彼らが批判する西洋天文学の知識は、イエズス会士系著訳書から基本的に得られただけに、その内容の調査研究が次の重要なテーマとなろう。 (4)円通をはじめとして、彼らは各地の寺院で須彌山説を講釈してまわった。その時の講義の筆録が講義とか講解となづけられて現存する。これらは日付および場所を記すものが少なくないから、その分析により、彼らの活動範囲や普及度を推定する恰好の史料となるが、この点は次年度の課題である。
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