今年度は、まず本研究の基礎となる資料の収集につとめるとともに、絵画や建築などのイメージ分析に用いるため、これらの資料から画像をデータベース化した。この画像データは東京大学教養学部における教育活動(「総合科目・空間芸術論」)においても活用された。資料、データベースをもとにしておこなった具体的な研究内容は次の通り。 1.世紀転換期ウィーンの芸術(文学・美術・建築など)における<装飾>および<セクシュアリティー>の表現をアドルフ・ロースやオット-・ヴァーグナ-といった建築家の作品に即して分析し、その特徴を検討した。あわせてこれらの建築家自らが理論化した言説において、<装飾>や<セクシュアリティー>という主題がどのように扱われているかを考究した。さらに生紀転換期のこの<装飾>および<セクシュアリティー>をめぐる芸術表象や言説を、ワイマ-ル・ドイツの芸術家たち(特に建築家ブルーノ・タウトやミ-ス・ファン・デル・ロ-エなど)のそれと比較対照した。 2.<装飾>が美術史研究の対象として構成される論理を、『装飾様式論』をはじめとする美術史家アロイス・リ-グルのテキストのうちにたどり、その独自性をそれまでの美学における<装飾>の理論的位置づけとの比較のうちにとらえることを試みた。さらにリ-グルによる美術史学の基礎づけに対してこの<装飾>という主題がどのように関係し、寄与したかを、『末期ローマの芸術産業』以後のリ-グルの業績を視野に収めつつ分析した。
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