研究代表者は、本文部省科学研究費補助金を得て、17〜19世紀の近世日本の対外観について文献を中心とした研究・調査を実施してきた。 この研究のために、立命館大学を中心に華夷思想研究会が組織され、また韓国ソウル大学韓国宗教研究会所属の儒教研究者、中国南開大学等の日本研究者との間で共同研究会や討議が実施されてきた。さらに、平成8年から平成10年に実施された日韓宗教研究者シンポジウム(平成8年天理大学・立命館大学にて開催、平成9年韓国大真大学校にて開催、平成10年立正佼正会中央学術研究所にて開催)では、韓国側研究者との間で意見交換が行われ、殊に平成8年に立命館大学で開催されたセッションでは、華夷思想の展開について近世日本と李氏朝鮮との間の比較・検討が行われた。また、平成9年には対馬宗家文書の調査を実施し、対馬藩での対朝鮮観の問題について基礎的研究を行った。これらの研究の成果については、既に論文4点を公表してきたが、それらを含めて拙著『思想史の19世紀』(ぺりかん社、平成11年5月刊行予定)が公刊される予定である。 こうした研究の結果、明清王朝交代を契機とした17世紀後期から18世紀にかけての「日本型華夷思想」の展開、「日本中華主義」への移行、及び18世紀後期からの対外危機下での華夷思想の解体とナショナリズムの生成について、対中国・朝鮮観を基軸としつつ、ほぼ全般にわたる見通しをつけけることが可能となった。殊に、李氏朝鮮での「朝鮮型華夷思想」「朝鮮中華主義」の展開と、徳川思想における対外観が相互に連動して展開していったことが示されたことは、近世日本の対外観を東アジア規模で考察する上では貴重な成果であったと思われる。 これまでの研究活動によって、関東在住研究者、関西在住研究者、名古屋在住研究者、および中国や韓国の研究者との間のネットワークが堅実なものとなって形成されてきた。これらの研究者の間では、今後も引き続き上記テーマに関する研究を行い、文献の収集、情報の交換、データの分析、共同研究の推進を行っていくことが確認されている。やがては国際共同研究として発展させていくことも検討にのぼっていることを最後に付け加えておきたい。
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