研究概要 |
17世紀のオランダはスペインから支配を脱して,独立国家へと歩み始めた。特に1609年の休戦条約以降は,対外的には戦争の危機が遠のき,国内的には商業活動が短期間のあいだにすこぶる発展した。芸術市場も例外ではなかった。プロテスタントが主流を占めたため,従来のように注文による芸術制作は激減したが,それにかわって自由市場がめざましい勢いで拡大した。対外貿易や商業活動によって豊かになった新興市民階級が都市に集まり,新たな消費者となったことが大きかった。当時のオランダでは人口の7割近くが都市に住み,絵画は耐久消費財であったばかりでなく,投資の対象でもあった。 この17世紀オランダの絵画市場は,しかし単純なものではなかった。絵画の消費者,従来型のパトロン,自由市場,美術商などが織りなす複雑な「場」であった。この中で当時数百万枚にものぼる絵画が制作され,売買されていった。絵画のジャンルも当初は,聖書や神話を題材にした「歴史画」の比重が大きかったが,やがて大衆が芸術の消費者になるにしたがって,画題にも大きな変化が見られた。肖像画や風景画の人気が次第に高まっていった。1650年代の英蘭戦争前あたりがピークとなり,その後はオランダの経済の衰退とともに絵画市場の活況も鈍り始めた。全体的な絵画市場の動向が明らかになったので,今後は絵画市場と画家の創造性とに何らかの因果関係がないものか,さらに突っ込んで調査したい。
|