この研究では、日本の音楽文化形成におけるツーリズムの影響を理論化する試みである。本年度の調査および資料収集による研究成果と今後の見通しは次のとおりである。 1、音楽ホールの建設と音楽文化形成:中新田町バッハホールでは、中規模の西洋音楽演奏と教育活動が定着し、日本の現代作品の初演も定評を得ている。他方、ホール維持について地方自治体の文化政策と産業・観光などとの関連したかたちでの、ホールを中心とした音楽文化の在り方が注目される。 2、音楽祭の開催と地域活性化:北海道各地で開催される音楽祭では、札幌市でのPMFを中心としたネットワークづくりが行なわれ、独自の地域性と音楽ホールの新設にともなって、西洋音楽を基盤とした音楽文化形成が見られる。音楽文化のコンテクストのなかで、こうした西洋音楽のもつ意味の差異がツーリズムを通してあらわれる状況を分析する必要がある。 3、テーマパークにおける西洋音楽演奏:ハウステンボスなどの西洋の都市を模したテーマパークでは、疑似西洋体験として、直接にツーリズムの影響のもとに音楽も体験される。疑似体験がオ-センティシティを求めるという構造が示されており、ツーリズムの理論をもちいた詳細な分析が必要である。 4、伝統音楽芸能の観光上演:八戸市の伝統芸能「えんぶり」は、神事や門付けなど生活に根ざした側面と、見物者(ツ-リスト)向けの側面とをもち、民謡歌手のアトラクションも含めた観光行事としての上演が行われる。これは日本の音楽文化のもつ重要な基盤を形成し、文化財の将来の姿への指針となるため、ツーリズム理論を基に西洋音楽の場合との比較検討を行なう。
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