今年度はとりわけ、ルネサンスのイタリアで著わされた女性論、あるいは女性の美についての著作を読み進め、それらの記述と、女性の肖像画や女神たちの登場する神話画等の美術作品との比較分析を試みた。女性論とは具体的には、アレッサンドロ・ピッコロ-ミニの「女性の良き作法について」(1539年)、フィレンツオ-ラの「女性の美についての対話」(1548年)、フェデリコ・ルイジ-ニの「美しき女性の書」(1554年)である。 その成果は、「ルネサンスの美人論」というタイトルで1998年10月に人文書院より出版された。本書は五つの章からなる。すなわち、第一章「美のキマイラ・断片のハ-レム」、第二章「ラウラの末裔たち」、第三章「優美とさりげなさ」、第四章「女性と壷」、第五章「神話・夢・スクリーン」である。この本で私は、ルネサンスからマニエリスムにかけて理想とされた女性美を、言葉とイメージの両面から明らかにするとともに、それらをさらにより広い視野のもとに置き直して、ジェンダーの政治学や社会的・文化的なコンテクストとの関わりから論じた。 また、それと平行して、聖者たちの肖像をめぐる宗教的な問題の研究、自画像への新しい観点からのアプローチも、昨年に引き続き続行されている。これらは来年度の研究の中心的なテーマになるはずである。
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