本研究の目的は、19世紀の公開演奏会に関する情報(演奏曲目や批評)をデータベースとして一元的に整理し、それをもとに個々の演奏会組織の特徴や演奏会制度の確立過程などを明らかにすることにある。実施に当たっては、まずAllgemeine musikalische ZeitungおよびNeue Zeitschrift fur Musikの2誌に掲載された演奏会情報のデータベース化に着手したが、当初予定していたOCRによる直接のテキストデータ化という方法がソフトウェアの能力的限界によってうまく機能しなかったため、(1)雑誌記事を画像データの形で電子ファイル化し、(2)そこに含まれる主なデータ項目を手作業でテキスト・データとして入力するという方法をとった。この方法の変更により、入力の対象も当初の予定より絞らざるを得ず、1840〜50年代のライプツィヒに限定した。入力済みのデータに関しては、MOディスクに保管し、随時参照可能である。また、次年度以降もこの作業は対象を広げつつ継続し、より完備したデータベースの完成をめざしたい。 さて、こうして限定的ながらもまとめられたデータベースと、その他の文献資料に依拠しつつ、19世紀中庸のライプツィヒにおける演奏会文化は次のように概観できる。(1)ライプツィヒの演奏会文化の中心はゲヴァントハウス演奏会だが、他にも管弦楽のオイテルペ音楽協会や合唱のリーデル協会といった市民的組織、あるいは大学付属聖パウロ教会の合唱団などが盛んに演奏活動を行っていた。(2)合唱団の多くは独自の演奏のほかしばしばゲヴァントハウス演奏会にも関わっていた。(3)演奏曲目の傾向としては、ゲヴァントハウス演奏会はベートーヴェン、メンデルスゾーンを中心とした比較的穏健な傾向を示し、オイテルペは新作への関心が高い。合唱団はルネサンスから同時代まで幅広いが、やや古いものに偏りがちである。
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