現地調査に先立ち、スペイン18世紀後半の版画史の枠組みのなかでのゴヤの版画研究の問題点を整理した(7月18日、昭和女子大学文化史研究会で口頭発表)。続いて夏期にか月間マドリードの国立銅版画院と国立図書館において、ゴヤの版画および18世紀末のアクワティントの技法の普及について調査をおこない、同時に文献と写真資料の収集をおこなった。 まずエレ-ナ・パエスの先行研究を通じて、1970年にはすでにアクワティントの版画がホセ・ヒメ-ノらの手によりスペインでも制作されていることがわかり、その作品調査をおこなった。また一方でゴヤへアクワティントを教えた人物と考えられているバルトロメ・スレダ(1769-1850)について調査した。彼はロンドンでアクワティントを学び(1793-96)、帰国後の1797年に機械を図示した版画を王立美術アカデミーで展示し新技法の成果を広く知らしめたのである。 ところが、国立図書館で開催された「ゴヤ普遍的言語」展においてゴヤと同時代の版画作品との比較展示がおこなわれ、ゴヤの版画によるベラスケスの模写に初歩的ながらアクワティントの技法が誰よりも早く用いられていることが確認できた。すでに1780年代にゴヤが独力で新しい技法を試みた可能性がでてきたのである。したがってこのゴヤの初期版画解釈に、王室絵画コレクションの複製版画という企ての面からも、新技法の使用の面からもより積極的な意味を持たせることが必要ではないかと思うに至った。 アクワティント普及に関する不明な点や矛盾点についてエレナ・デ・サンティアゴ博士やフアン・カレ-テ博士らと意見を交換する機械を得、このテーマに考察の余地がまだ充分残されていることを確信した。帰国後、以上の調査の中間報告として「第18回スペイン史学会」(10月27日、於明治大学)で口頭発表をおこなった。
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