昨年度ゴヤの生誕250周年にあわせて、スペインでは多くの研究書や展覧会図録が出版されたが、このとき収集した文献資料や国立図書館の写真資料をもとに、今年度もゴヤの版画と同時代のスペイン版画の比較考察を継続した。その中間的な報告を5月に『鹿島美術研究』(1997年11月刊)に発表した。この論考では、18世紀末のアクワティントの技法の普及について、ゴヤへアクワティントを教えた人物と考えられているバルトロメ・スレダ(1769-1850)について、ゴヤの版画におけるエッチング、アクワティントの意図的な使用についての3つのテーマに焦点をあてた。ここで特に注意を喚起したいのは、ゴヤの版画によるベラスケスの模写に初歩的ながらアクワティントの技法が当時のスペインで誰よりも早く用いられている事実と、これまでのゴヤの版画解釈に欠如していた、当時の版画制作の状況とゴヤとの関係である。ともかくゴヤの初期の版画作品の解釈に、王室絵画コレクションの複製版画という企ての面からも、新技法の使用の面からもより積極的な意味を持たせることが必要ではないかと確信するにいたった。 また11月上智大学で開催された美術史学会東部特別例会において「カトリックとスペイン美術の諸相」という統一テーマのもとで、「ゴヤとカトリシズム」と題する研究発表をおこなった。ゴヤの版画集「気まぐれ」に含まれる反教権的な修道士への風刺版画を、ゴヤの宗教画を再検討した上で、比較考察をおこなった。
|