平成8年度の研究目標は、ミュンナーシュタットのマグダラのマリアの祭壇自体について調査研究することであった。すでに当祭壇についての図像研究は相当進んでおり、リーメンシュナイダーの祭壇のなかでは、最も頻繁に研究対象となっているものである。しかし当研究課題における出発点は、当祭壇が無彩色という表現法をとっていることに対する根本的疑問であった。また他のリーメンシュナイダーの著名な無彩色の作例(ロ-テンブルク、クレークリンゲン)が、聖遺物と深い関わりをもつ脇祭壇であるのに対して、当祭壇が主祭壇として1490年という早い時期に無彩色で登場していることは、一層深い疑問を投げ掛ける。 そこで浮上するのは以下の主張である。すなわちこの時期の祭壇の無彩色性は、何らかの意味で改革的傾向を帯びている。つまり宗教改革の精神につながる要素を含んでおり、それをフス派的と呼ぶことができるという。たしかに、無彩色祭壇全体の精神的背景を説明するのに、この主張は一つの道を示してくれていると言えよう。 しかしながら、ミュンナーシュタットの祭壇を果たして改革的と位置付けることができるのかどうか。性急に結論を出すべきではないと考える。 目下のところ、そうした観点も視野のうちに入れつつ、むしろマグダラのマリアの祭壇にかかわる特定の条件に密着して、研究を進めている。その際、祭壇のみを切り離して単独に見るのではなく、1428年-46年に造営されたゴシック式内陣(祭壇の置かれている)全体のプログラム、および、15世紀初頭に制作され今日に伝わる、内陣部のステンド・グラスの図像プログラムとの関わりのなかで、祭壇の意味を捉え直す必要があると考えている。
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