研究課題/領域番号 |
08610068
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | (財)元興寺文化財研究所 |
研究代表者 |
菅井 裕子 (財)元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (20250350)
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研究分担者 |
北野 信彦 (財)元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (90167370)
山内 章 (財)元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (90174573)
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キーワード | 日本画 / 絵具 / 新岩絵具 / 変色 / 鉛ガラス |
研究概要 |
1.新岩絵具の変色試験 変色試験に用いた新岩絵具は最も粒子の細かい「白」で、色目は緑青・黄土・水浅黄・桃色・銀鼠の5色である。試料は、主に絵具を和紙上に膠を用いて塗布した試料(礬水引きの有無、胡粉下地の有無の区別あり)を使用した。 1)高湿度下(>98%RH)、亜硫酸ガス(二酸化硫黄・SO_2)10ppmの環境下に20時間曝露した際に、絵具の著しい変色(明度L^*の減少、赤みa^*の増加、黄みb^*の増加)が観察された。この条件下での変色の程度は、礬水引きや胡粉下地の有無に関係しないという結果が得られた。この変色はおそらく硫化鉛等の硫化物の生成による変色と考えられるが、元素分析(ケイ光X線分析)のみでは追跡が困難である。結晶構造の変化の確認(X線回折分析)を次年度行う予定である。この条件より低濃度のSO_2の存在下で、礬水引きや胡粉下地の有無により変色程度が異なるかどうかについても今後試験を行い、製作技法と変色との関係を追跡する。 2)乾燥条件下(25%RH)でのSO_2の影響は比較的小さかったが、赤みa^*の減少が見られた。 3)他の大気汚染原因となるガス、例えば二酸化窒素による変色、及び紫外線による影響については現在調査中である。 2.変色した日本画作品の調査 石川県立美術館及び生駒市宝山寺等において、日本画画面の彩色層及び下地層の絵具の種類、変色・剥離などの劣化の状況、制作年代、画面の基底材の種類(木、紙など)や劣化状況について調査した。絵具の厚塗りによると思われる亀裂やヒビ等が観察され、変色と思われる部分も見受けられた。しかしながら、分析可能な剥落片を入手するに至っておらず、また、変色以前の状況がどのような色であったかが判るような部位(例えば額縁で隠れている所など)を観察し得る機会が無かった。そのため今年度は、実際の日本画画面での変色を定性的に調べるには至っていない。今後、所有者の了承を得て、調査の機会を求めていく予定である。
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