研究課題/領域番号 |
08610068
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研究機関 | (財)元興寺文化財研究所 |
研究代表者 |
菅井 裕子 (財)元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (20250350)
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研究分担者 |
北野 信彦 (財)元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (90167370)
山内 章 (財)元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (90174573)
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キーワード | 日本画 / 絵具 / 新岩絵具 / 変色 / 鉛ガラス / 二酸化硫黄 / 硫化水素 / ホルムアルデヒド |
研究概要 |
1.変色した日本画作品の調査 新岩絵具を用いて描かれ、約20年経過した日本画の画面に、変色した部分が観察された。制作後、どの時点で変色が起こったのかは不明である。これらの部分は比較的粒子の粗い新岩絵具で描かれ、群青色あるいは緑色の部分の表面が黒銀灰色に変化していた。下地は朱である。これらの箇所を制作者の許可を得てサンプリングし、X線回折により分析したところ、変色部分には硫化鉛(PbS)が生成している可能性があることを確認した。 硫黄が導入された原因としては、(1)外部からのガス等によるもの、(2)他の画材によるもの が考えられるが詳細は不明である。 2.新岩絵具の変色・回復試験 変色試験に用いた新岩絵具は最も粒子の細かい「白」で、色目は緑青・黄土・水浅黄・桃色・銀鼠の5色である。 試料は主に絵具を和紙上に膠を用いて塗布した試料(礬水引の有無、胡粉下地の有無の区別あり)を使用した。前年度に引き続き、各種ガスによる変色の影響を調べた。 1)高湿度下、二酸化硫黄10ppm、20時間: 色変化の傾向は、黄土・銀鼠は黄変、水浅黄などはやや白化するなど、絵具の色により異なっていた。ガラス中の鉛は変化せず、絵具の着色剤の金属のみが変色した可能性が考えられる。 2)高湿度下、硫化水素10ppm、20時間 試験に用いた5色いずれも黒変した。鉛及びその他の金属元素が硫化したことが考えられる。 3)高湿度下、ホルムアルデヒド25ppm、20時間 ほとんど変化がなかった。 上記の3条件のうち、1)、2)では、胡粉下地のある試料、及び礬水引きのない試料の変色が比較的軽微であった。 次に3)については、今回の条件下では変色がみられなかったが、長時間暴露による影響が懸念される。パネルに使用されることのある合板の接着剤からホルムアルデヒドが発生する恐れがあり、影響の確認が必要である。 なお、1.の調査結果を受けて、朱の下地と新岩絵具との相互作用を調べたが、数ヶ月の試験では変化が見られなかった。 一方、二酸化硫黄で変色した試料の回復がオゾンにより可能かを調べたが、部分的に元の色に近づくものの、ムラができてしまい、完全な回復には至らなかった。
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