研究概要 |
1.今年度は,線条体を含む神経回路のうちで,線条体内の神経細胞体のみを選択的に損傷するために,ラットを用いて線条体カイニン酸投与を行ない,放射状迷路学習の遂行に及ぼす効果を検討した.その結果,(1)カイニン酸投与動物では,選択走行反応自体は可能であるにもかかわらず,この課題の学習(正しい選択)が著しく障害されており,長期(術後70日)にわたって訓練を繰り返しても,約半数のラットでは依然としてこの課題の学習基準を満たすことができなかった.(2)放射状迷路課題の遂行にとって必要と考えられる2つの記憶要素,すなわち参照記憶と作業記憶,に及ぼす効果を検討したところ,線条体カイニン酸投与ラットは統制群に比べ,参照記憶と作業記憶の両方で有意に劣ること,なかでもとくに参照記憶の障害が顕著であり,訓練とともに改善がほとんどみられないことが明らかになった. 2.同じく線条体カイニン酸投与ラットを用いて,放射状迷路以外の学習課題の遂行に及ぼす効果を検討した.弁別箱を用いた縦横縞弁別課題では,カイニン酸投与ラットに統制群と比べて有意な差がなく,またシャトル型回避学習においても,有意な障害は認められなかった. 以上のように,線条体の神経細胞死によって生じる学習障害は,その学習課題の種類に依存することが,明らかになった.現在,この動物を用いて,線条体における各種神経伝達物質の生化学的動態を検索している.
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