研究概要 |
大脳基底核の主要な領域である線条体は,感覚や運動のみならず,学習・記憶等の認知的機能を担っていることが示唆されている.本研究課題では,線条体内のどのような神経回路が,どのような学習に関与しているかを検討することを目的とした.平成8-9年度では,興奮性アミノ酸の1つであるカイニン酸をラットの線条体に投与し,線条体内の神経細胞体を破壊することによって,空間記憶課題の1つである放射状迷路課題の遂行が顕著に障害されること,さらに,線条体損傷によるこの放射状迷路学習障害に対して,ガンマアミノ酪酸(GABA)受容体のうちGABA-A受容体作動薬の末梢投与が,遂行を改善することを報告した. 本年度は,線条体のアセチルコリン神経系に注目し,アセチルコリン受容体の1つであるニコチン受容体の作動薬の学習改善効果を検討した.ラットに8方向放射状迷路課題を訓練し,学習完成後,線条体にカイニン酸投与手術を行った.回復後の再学習訓練では,ニコチン受容体作動薬であるニコチンを毎試行の直前に投与した.その結果,ニコチンを投与してもカイニン酸による学習障害は改善の傾向を示さなかった.したがってこの課題の遂行において,線条体のアセチルコリン神経系のうち,ニコチン受容体はそれほど重要な役割を果たしていないことが示唆された.もう1つのアセチルコリン受容体であるムスカリン受容体について,今後検討する必要がある.
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