研究概要 |
本研究は,人間の認知機構がおこなっている推論,理解,知識,評価などのはたらき,さらには,種々の価値観,関心,興味といった心の状態が感情の生起にどのように関与しているかの心理モデルをつくりあげることを第一義的な目的としている. 研究の初年度として,感情体験と認知との間の依存関係の厳密な記述をめざし,認知-感情-行動の依存関係の個人差を適切に表現するためのモデルの概略を構築した. 具体的には,日常体験の一例としてテキスト(TVドラマおよび小説)読解過程をとりあげ,ドラマ鑑賞および小説鑑賞の過程において生起する認知・感情の計算モデルを構築した.このモデルは,個々の感情体験を単なる記号ラベルとして生成するのではなく,目標・計画・状態評価という下位コンポーネントの集合体として表現する.感情それ自身を生成する機構はどこにも存在しないが,下位コンポーネントのマクロ的集合としてみると感情が生成されているという意味で,本モデルは創発的モデルといえる.このモデルはLispで記述されている. また,日常場面において体験する感情反応を、その場面の認知と,その場面における行動についての記述と共に採取するための,反応採取ソフトウエアも作成した.反応の採取は、インテリジェント化されたコンピュータが発話反応を喚起する予備セッションと、訓練された実験者が反応内容の分析のための発語思考を喚起する本セッションからなる。コンピュータによる自動化は、プライバシーの確保が感情反応記述に欠かせないという過去の研究結果から導入された、必要不可欠な要因である。
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