本年度は以下の3点について実験的検討を行ない、それぞれいくつかの知見を得た。 1.馴化と潜在制止の程度を規定する要因の違いの分析:味覚刺激に対する馴化の過程は、前呈示期において刺激呈示量を一定にした場合、あるいは刺激呈示時間を一定にした場合のいずれの事態でも、呈示回数によってのみ規定され、テスト直前の刺激呈示量あるいは時間による影響は受けなかった。それに対して潜在制止の程度は、前呈示期における刺激呈示量を一定にした場合には、呈示量(2mlあるいは5ml)にかかわらず条件づけにおける条件刺激(CS)呈示量による影響を受けないが、前呈示期における刺激呈示時間を一定にした場合には、CS呈示時間が長いほど顕著な現象が生じた。 2.潜在制止効果の保持間隔による変動の検討:味覚嫌悪学習の事態を用いて、刺激の前呈示から条件づけ後のテストまでの保持間隔を増大させると潜在制止の効果が減弱するという事実を確認したが、前呈示の直後に条件づけを行なった場合と比較して、テストの直前に条件づけを行なった場合の方が減弱の程度は大きかった。したがって、潜在制止の強度は前呈示からテストまでの間隔によって決定されるという仮説は完全には支持されなかった。 3.潜在制止と隠蔽現象の加重の可能性:潜在制止と隠蔽を同一の機構に基づくと考える理論から導かれる、刺激の前呈示後に複合条件づけを行なうと、その刺激のみをCSとして条件づけた場合よりも学習が弱まるという予測を、条件性抑制の事態を用いて検討した。その結果、予測に反して、複合条件づけによって潜在制止の効果はむしろ減弱することが示唆された。
|