本年度はおもに以下の2点について実験的検討を行ない、それぞれいくつかの知見を得た。 1.潜在制止と消去の効果の比較検討:パヴロフ型条件づけにおいて、条件づけからテストまでの保持間隔が短い場合には、条件づけの前に条件刺激を単独で呈示することによる条件反応の減少効果(潜在制止)と、条件づけの後の条件刺激の単独呈示による効果(消去)の程度はほぼ等しいが、保持間隔を増大させると潜在制止の効果は弱まる、つまり条件反応がより強く現れるようになるのに対し、消去によって減少した条件反応の自発的回復は認められなかった。これらの事実は、潜在制止と消去の効果をともに記憶の検索時における干渉であるとする説明とは合致しない。 2.潜在制止効果の保持間隔による変動の検討:前年度に引続き、味覚嫌悪学習の事態を用いて、潜在制止の効果が刺激の前呈示から条件づけ後のテストまでの保持間隔によってのみ規定されるとする検索干渉仮説からの予測の検討を行なった。その結果、前呈示から条件づけまでの間隔を10日間とした場合には、条件づけからテストまでの間隔が長い(11日間)条件では、それが短い(2日間)条件よりもテストにおける条件反応が弱い、つまりより大きな潜在制止が認められた。前年度までの研究で得られた知見と併せて考察すると、これらの事実は潜在制止の機構には条件づけにおける習得の利害とテスト時の記憶検索における干渉の2つの過程が関与していることを示唆するものと考えられる。
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