研究概要 |
本年は,和音情報について,潜在記憶を反映すると考えられる反復プライミングが見られるかどうかを検討した.筆者はすでに,和音の長調短調判断課題を用いて反復プライミングが見られる可能性を報告しているが,そこでは,DATテープを用いて実験を行った.しかし,DATによる実験は刺激順序の制御などが困難であり,ランダム提示が可能な実験システムが必要であった.そこでまず,パーソナルコンピュータを用いて簡易に実験できるシステムを作成した.筆者自身のこれまでの実験結果を踏まえて,今回は音色という知覚属性の変化が反復プライミングにどのように影響するかを検討した.実験は,典型的な反復プライミング実験の手続きを用いた.まず,学習段階では,ランダムに和音を3secずつ提示しその和音に対する好みの判断を被験者に求めた.続くテスト段階においては,学習段階で提示された旧和音に新和音を加えて,ランダムに提示した.提示時間は100msecであり,被験者には提示された和音が長調か短調かを判断することを求めた.刺激和音は,長調短調を半数ずつ用意した.また,学習段階とテスト段階の和音の音色が一致する場合と一致しない場合が設けられた.その結果,旧和音の方が長調短調判断が正確になる傾向が見られた.また,音色が同じか異なるかという変化の影響は見られなかった.これらのことから,和音の反復プライミングには音色情報を処理した後の情報が保持されていると考えられる.ただ,個人差が見られ,そのために明確な結果が得られなかった部分もある.個人差については音楽経験の程度などが考えられ,さらに検討を進める必要がある. 次年度は,和音刺激だけでなく,重要な音楽情報あるメロディーに関しても反復プライミングが見られるかどうかを検討し,聴覚系の潜在記憶にどのような特徴を持った情報が保持されているかを明らかにする予定である.
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