(1)平成8年度に続き、デンショバトとアカゲザルの知覚的補間過程を実験的に分析し、比較した。タッチパネルつきディスプレイに種々の長さの黒い水平線分を掲示した。水平線分の長さがある基準より長いか短いかを、それぞれに対応した反応場所をつつく(あるいは触れる)ことにより報告する訓練をした。訓練完成後、水平線分の横に灰色の領域を提示し、その領域と水平線分のげき間を操作して「長い」「短い」の報告がげき間の大きさによってどのように影響されるかを分析した。ヒトの場合には灰色領域が水平線分に接触すると線分の長さが過大視される。これは線分が灰色領域の裏側に隠れているという認識により、「隠れた」部分が補間されるからだと解釈される。実験の結果、アカゲザルではヒトと同様の過大視が生じるがハトでは生じないことが明らかになった。霊長類とハトの間には知覚的補間過程に大きな差があることがわかった。(2)チンパンジーを対象に、時空間的境界形成過程を分析した。画面にランダムにドットを配置し、円、三角形などの仮想的な図形領域に入ったドットの色彩を変える。ドットがまばらになると(仮想的な)図形の形はわからなくなるが、仮想的な図形が運動すると図形の形が明瞭に知覚される。5種類の幾何学図形の見本あわせをチンパンジーに訓練した後、見本図形をドット表示に変えた。仮想図形が静止している条件と運動する条件とを比較すると、チンパンジーの正答率はほぼ一貫して後者の方が高く、またこの傾向はドットの密度が薄くなるとと顕著になった。ヒトと同じようにチンパンジーも時空間情報を統合して、情報を補間して輪郭を知覚しているらしいことがわかった。まだ予備的データを収集したばかりで、実験は現在も継続中であるので、(2)の研究成果は研究報告書に含めなかった。
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