ラットでは、幼若時に片眼を摘出しておくと、残存眼からそれと同側の視覚中枢に投射する非交叉性情報系(UXVP)に、入力遮断に対する補償作用としての再編成が出現し、その系の機能が増大する。われわれはこれまでに、その態様を行動的側面と電気生理学的側面から分析した結果、幼若時に片眼を摘出したラット(OEB)では、両眼が健全な状態で成長したラット(OET)には存在しない、視床後外側核から大脳皮質17野への新たな投射線維が形成されること、およびUXVPにおけるこうした可塑的変化による再編成が、白黒弁別学習を促進させる形で行動面にも反映されることを明らかにした。 そこで本研究では、OEBのUXVPにもたらされる機能的増大の態様およびその可塑的神経機構を、これまでとは異なる手法により詳細に解析し、以下のような研究成果を得た。 1.縞視力を指標とした行動面における解析 OEB、OETについて30mm幅の白、黒が交替する縦縞-横縞弁別行動を形成後、縞幅を順次段階的に減少させ、80%の正反応が維持される最小の縞幅を測定した結果、OETが10mmであるのに対してOEBが6mmという形で、UXVPに誘起される機能的増大の様態を縞視力を指標として行動面から解析可能であることが明らかにされた。 2.Fos-like immunoreactivity(FLI)による可塑的神経機構の免疫組織化学的解析 OEB、OETそれぞれのUXVPについてFLIニューロンを検索した結果、OEBの上丘および視床後外側核において、OETには見られない強いFosの発現が観察され、UXVPに機能的増大をもたらす可塑的神経機構を免疫組織化学的側面から解析可能であることが明らかにされた。
|