ラットでは、幼若時に片眼を摘出しておくと、残存眼からそれと同側の視覚中枢に投射する非交叉性情報系(UXVP)に、片眼摘出による入力遮断に対する補償作用としての再編成が出現し、その系の機能が増大する。われわれはこれまでに、その様態を行動的側面と電気生理学的側面から分析した結果、幼若時に片眼を摘出したラット(OEB)では、両眼が健全な状態で成長したラット(OET)には存在しない、視床後外側核から大脳皮質17野への新たな投射線維が形成されること、およびUXVPにおけるこうした可塑的変化による再編成が、白黒およびパターン弁別学習を促進させるという形で、行動面にも反映されることを明らかにした。 そこで本年度においては、幼若時の片眼摘出によりOEBのUXVPにもたらされる機能的増大の神経機構を、Fos-like immunoreactivity(FLI)を指標として解析した。OEB、OETそれぞれについて、24時間の暗順応後、ウレタン麻酔下で残存眼にパターン刺激を提示し、120分間暗黒条件下においた後、4%PFA/0.1MPB溶液により灌流固定した脳の50μm前額断連続切片を用いてc-fos免疫組織化学を実施し、以下の事実を得た。 1.残存眼と同側の上丘のintermediate gray layerにおけるFLIニューロンの分布にはOEB、OETの間に差が認められない。 2.残存眼と同側の上丘のsuperficial gray layerでは、OEBにおいてその全領域にFLIの発現が強く認められるのに対して、OETでは僅かなFLIの発現しか認められない。 以上の免疫組織化学的解析から、幼若時の片眼摘出によりOEBのUXVPに誘起される機能的増大には、上丘のsuperficial gray layerにおける形態的変化が大きく関与することが示唆された。
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