本年度は、認知的表象の基本である知覚の体制化による意味づけ過程を、視対象の面及び重なりの知覚について実験心理学的に検討した。 まず、主観的輪郭線知覚に及ぼす幾何学的布置と色彩・明暗刺激次元の効果について、線分刺激を用いて検討した。線分は、その配置によって、様々に知覚的に統合・補完されて、面として意味づけられた知覚を生じる。例えば、線分を同一線上に配置するとネオンカラー効果と呼ばれる色錯視現象が生じ、線分終端が形成する共線に対応して主観的輪郭線が知覚される。この線分布置による知覚的文脈と面の知覚という体制化の関係を測定し、結果に基づいて、皮質第1次視覚領にあるend-stopped cellの結合機構と関係づけることによって、面の知覚の表象過程を検討した。 次に、透明視成立過程における色彩・明暗と形態の相互作用、及び、色彩刺激パターンに対する重なりの知覚成立条件を検討した。従来、透明視は、物理的条件に基づいて、明暗次元のみで検討されてきた。本研究では、色による透明視および重なりの知覚の成立要件を測定した。その結果、透明視が成立するときの、飽和度コントラスト条件は明暗コントラスト条件と等価であることが明らかとなった。この結果は、透明視は、透明な物体の重なりによる輝度低下という物理的な制約には必ずしも拘束されないこと、さらに、従来の研究で提唱されている局所的な情報よりも、大局的な色・明るさコントラストの変化の仕方という情報が重要である事を明らかにする。測定結果に基づき、Filling-in過程に基づく、透明視及び面の重なりの知覚の表象モデルを考案した。
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