視知覚における認知的表象と情緒的表象の関係を、刺激に対する知覚的・情緒的意味づけ過程に焦点を当てて検討した。まず、形の知覚において幾何学的布置と色彩・明暗刺激次元の効果が、知覚の体制化・意味付け・印象の形成に及ぼす寄与および相互作用を検討した。知覚現象として透明視をとりあげ、透明-不透明という知覚次元がどのように形成されるのかを、色による透明視・重なりの知覚の成立要件を測定することにより検討した。その結果、透明視は、重なりによる輝度低下という物理的制約には必ずしも制約されないことが明らかとなった。測定結果に基づき、Filling-in過程に基づく透明視・面の重なりの知覚表象モデルを考案した。 次に、奥行き知覚において、刺激の幾何学的布置・形態が空間の構造化・印象の形成に及ぼす寄与・相互作用を検討した。線刺激パターンを実体視で提示し、3次元空間における3線分の構成する知覚的共面性を判断基準として、刺激の幾何学的要因の効果を測定した。その結果、空間における共面性の知覚には、異方性がみられ、水平方向での知覚的奥行き変化は線分の長さが与える線遠近法の影響をうけるが、垂直方向ではその影響が小さい。また、この奥行き知覚の垂直・水平の異方性は、形態における奥行き感と空間における奥行き感の違いを反映していることが示唆された。結果から、両眼視差による奥行き知覚は、空間の方向および刺激布置などの要因で決まる知覚的文脈によって異なる性質をもとことが明らかとなった。
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