研究概要 |
聴覚刺激を用いた研究 1.被験者の一側の耳に単語系列,他側には小説の朗読を提示し,いずれか一側の耳に選択的に注意を集中させた.注意の対象となった単語には,N400が大きく達したのに対し,注意の焦点が朗読側に逸れるとN400はほとんど惹起されなかった.また,単語注意時に意味的に関連する単語が先行すると,N400振幅は減衰し,意味プライミング効果が観察された.こうしたN400の結果は,この数年に報告された結果に一致し,N400が多分に意識的制御処理に関与することを示した. 2.ERP実験後に実施した再認課題の成績は,フォールス・アラームが注意時に提示された単語と意味的に関連する場合に最も多く,続いて非注意側提示語の意味関連語,そしていずれとも意味的に無関連な単語の順であった.本結果は注意対象外の音声語入力も語彙処理を「部分的に」受けていたことを示し,注意の方向に関わりなく語彙処理を「同等に」受けるというBentin et al(1995)と異なる.この結果の不一致を手続き的な面から検討中である. 視覚刺激を用いた研究 3.顔刺激に特異に誘発されるP170を記録しながら,顔の明瞭度を徐々にぼかす条件(下降)と,顔と認識できない刺激から明瞭度を上げていく条件(上昇)を比較した.上昇条件に比べ,下降条件で明瞭度の低い刺激でP170が惹起された.P170が顔認識初期段階(構造的符号化)に応ずる電位という示唆に従うと,初期認識処理に予期図式といった注意の作用が働くことを示している. 4.顔の男女弁別条件と男女+職業弁別条件を比較すると,両条件に共通してN320が出現し,続いて男女+職業弁別条件にのみN410が発達した.これらの成分から構造的符号化後の顔認識過程を分析しうると期待している.
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