研究概要 |
平成8年度に施行した実験結果を踏まえ,そこで問題となった点を中心に実験的な検討を加えた. 聴覚刺激を用いた研究 選択的聴取事態で観察されるERPのN400成分における注意効果と意味プライミング効果を利用するとともに,その後に施行した再認テストにおける行動成績を積極的に活用して,非注意入力に対する意味処理を検討した.実験方法は昨年度とほぼ同じであるが,昨年度の再認成績でBentin et al(1995)と異なる結果を得たので,今年度は彼らと同様に単語を聴覚的に提示して再認テストを行った ERPは,昨年度同様,注意の対象となった単語にのみN400が大きく発達し,意味プライミング効果も観察され,まず,課題遂行時の選択的な注意集中が教示どおりに実行されたことを確認した.続く再認テストのフォルス・アラーム率も,施行方法の違いにも関わらず昨年度同様,選択聴取時に意味関連語が注意の対象となっていた場合には,注意対象外に比べて有意に高い値を示した.本知見は,注意方向に関わりなく意味処理を「同等に」受けるというBentin et alと異なり,意味記憶表象へのアクセス段階ですでに注意が作用することを再び示唆した. 視覚刺激を用いた研究 昨年度同様,顔の明瞭度を徐々に下げる条件(下行系列)と明瞭度を上げていく条件(上行)で,ERPの振舞を比較した.同一の明瞭度の刺激を連続提示した昨年度と異なり,刺激提示ごとに明瞭度を段階的に移行させるとともに,ERP導出もT5・T6(鼻尖基準)に変更した.結果は顔刺激に特異に増強するN170では系列効果が明瞭ではなく,その後のN270で刺激文脈の効果が得られた.今後はこうした結果の違いの原因を探るとともに,個人情報ノードや名前の生成といった意味処理や注意の作用も含めた顔認識研究に本研究で考案されたパラダイムが有用に活用されるものと期待する.
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