研究概要 |
平均聴力レベル90dB以上の重度聴覚障害児75名について、母音受聴明瞭度、母音発音明瞭度並びに自己発話母音受聴明瞭度とそれらの相互関連性を検討した。その結果、それらの異聴には一定の傾向が見られること、聴能を高め、発話において聴覚フィードバックを有効に活用している聴覚障害児の有する聴覚的カテゴリーは、多少のずれは存在するものの、健聴児により近似するものであることが推察された。また、健聴児・者の正常な発音の聴取能を自己発話の受聴に生かし聴覚フィードバックを有効に働かせなければ、発音の明瞭さの向上にはつながらないことが示唆された。 また、重度聴覚障害児の発話した破裂子音における有声・無声の対立(/p/⇔/b/,/t/⇔/d/,/k/⇔/g/)において、評価者全員(10名)が正しく無声と聴き取った無声破裂子音発話音声と、60%以上(10名中6名以上)の評価者がその無声破裂子音として聴き取った相対立する(調音部位の同じ)有声破裂子音発話音声について、両発話音声の音響音声学的特徴、具体的にはVOT(Voice Onset Time)の差異を分析・検討した。その結果、1)有声-無声破裂子音のVOTについて、/p/-/b/並びに/k/-/g/にあっては無声のVOTが有意に長かったが、/t/-/d/には有意差が認められなかった。2)無声と評価した評価者数と/t/-/d/間のVOT差との間には相関が認められたが、/p/-/b/間のVOT差並びに/k/-/g/間のVOT差との間には相関は認められなかった。これらのことから、聴覚障害児の単音節発話音声には、聴覚的には同一単音節と評価されるものであっても当該児の内では相異なる音節として発話されている可能性のあるもののあることが示唆された。また、音節によっては、有声・無声の識別の手掛かりの一つであるVOTの差が、無声と聴覚的に評価される割合を良く反映しているもののあることが示唆された。
|