研究概要 |
平均聴力レベル90〜123dBの難聴児を対象に,100音節の発語明瞭度,健聴児の発語による母音の受聴明瞭度,母音の発語明瞭度並びに自己の発語による母音の受聴明瞭度の相互関連性を検討した。その結果,母音の発語明瞭度が高くても語音聴取能の低い者は発語明瞭度が低いことが示唆され,子音を含む発語の明瞭さには,母音の発語の明瞭さに加えて聴覚フィードバックが重要であることが示唆された。更に,100音節の発語明瞭度と自己の発語による母音の受聴明瞭度に高い相関が認められたことからも,発語の明瞭さにおける聴覚フィードバックの重要性が示唆された。一方,健聴児の発語による母音の受聴明瞭度も母音の発語明瞭度も共に低いにも関わらず,自己の発語による母音の受聴明瞭度が高い者がいたことから,健聴者とは異なる独自の母音の音響・音韻的範疇を有する聴覚障害児の存在が示唆された。 また,平均聴力レベル90dB以上の難聴児の発語のうち,無声音が全健聴評価者に正しく聴取され,その無声音と同一調音部位の有声音を,50%以上の評価者にその無声音として聴取された無声ー有声破裂子音を分析の対象とし,スペクトログラムからVOT(Voice Onset Time)を測定し,その差異と聴覚的評価との関連性を検討した。その結果,ほぼ全評価者が同一と評価した音節でありながら,無声音のVOT:が有声音に比べて明らかに長かった症例が認められた。一方,評価者全員が同一と評価した音節であって,かつVOTに差が認められなかった症例も存在した。前者のように,健聴の評価者のほぼ全員が同一と評価した単音節であっても,音響音声学的パラメータに大きな差異のあるものが認められたことから,聴覚障害児の発語した単音節には,聴覚的には同一と評価されるものであっても当該児の内では相異なる音節として発語されている可能性のあるもののあることが示唆された。
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