静止した1枚の空間表現、例えば絵画の中に時間の印象を感じることがある。それでは一体、(1)画面にはどのような時間が感じられるのか、(2)それはどのような視覚要因によって喚起されるのか、(3)意図的表現でも同じ視覚要因が用いられるのか、(4)意図的表現を課す場合、課題提示における言語表現の影響はあるのか、(5)表現された作品の意図は鑑賞者にどの程度伝わるか、(6)どの視覚要因を用いた時に伝達度は高まるのかに関し、今期間は(2)および(4)〜(6)に重点をおいて検討した。 (2)に関しては速度感と空間周波数成分、時制と色相の関係を系統的に調べ、高空間周波数成分の低下が速度感の減衰を招くこと、色相が短波長寄りおよび長波長寄りになると時制の印象が変化することを指摘した。(4)に関しては、「過去・現在・未来」と「昔の・今の・これからの」の2種の課題提示による絵画表現の比較ならびに、サークルテストと表現に関するアンケート調査による補足実験を通して、課題提示の仕方が視覚要因の選択に影響を及ぼす場合もあることを指摘した。(5)と(6)に関しては、(a)過去・現在・未来、(b)すばやく・ゆっくり・止まった、(c)瞬間・永遠・持続をそれぞれ3枚一組で表現させ、これを刺激として別の被験者にどれがどの表現に当たるのかを推定させ、(a)の正答率は、(b)や(c)によりも低く、特に方向性の要因が正答率に大きな影響を及ぼすこと、(b)では空間周波数より構図の要因が高正答率を導くこと、(c)では混同された表現傾向から瞬間・永遠・持続の概念自体に共通性が存在すること等を指摘した。これら一連の研究および現代芸術における「時間」表現についてのより広い考察を通して、時間の空間表現ならびに空間の時間印象について検討した。なお、科研費は刺激作成、データ整理、発表資料作成に有効に活用した。
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