研究概要 |
本研究は,平成8年度より3年間文部省科学研究費補助金(基盤研究C-2)を受け,「ダウン症者の加齢に伴う運動機能の変化:心理面と生理面からの検討」の課題のもとで行った第1年目の報告である。 今年度は,養護学校中学部・高等部に在籍する生徒及び精神薄弱収容施設成人棟に在園する園生のうち,10歳代から40歳代までのダウン症者を対象として,青年期以降のダウン症者の心理的特性,特に生活を送るための基盤になると考えられる運動機能を脳幹部の機能との関連で,年齢の増加に伴う機能の測定を実施した。 <方法> 1)対象者:北海道と新潟県の養護学校中学部,高等養護学校及び精神薄弱者収容施設成人棟に在籍・在園するダウン症者34名のうち,承諾が得られ測定が可能であった23名(男13名,女10名)を対象とした。2)検査内容と手続き:検査項目は,握力,背筋力,タッピング,パチンコ玉つまみ,片足立ち,歩行姿勢の測定を行った。また,脳幹部の機能について,聴性脳幹誘発反応(ABR)を用いて測定した。 <結果と考察> 今回の調査では,協力を得られたダウン症者の年齢層は,10歳代(13-18歳)と30歳前後の層(23-31歳)に偏っていたことから,この2つの年齢別にグル-ピング化して検査項目を分析した。1)運動機能の各検査項目の平均値を概してみると,握力と背筋力では,両グループの成績はほぼ同様な傾向がみられた。しかし,タッピングやパチンコ玉つまみでは,10歳代グループの方が価が高い傾向を示した。小筋群の機能は,加齢に伴い緩やかに下降する傾向がうかがわれた。2)聴性脳幹誘発反応の結果では,10歳代グループの方がABR波形の出現及び再現性が良好であり,30歳代グループではABR波形が再現性を持て出現しない者が多かった。この差異については,加齢の影響だけではなく知的レベル等の他の要因が関与している可能性があり,今後標本集団を増やし,知的レベルをある程度揃えた上で検討する必要がある。 今回の調査では,20歳代,30歳代後半,40歳代が含まれていないので,2年目ではこれらのグループを中心に調査を実施・継続する計画である。
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