本年度は研究の主たる目的である算数・数学の到達度水準について検討を加えるために算数・数学学力の共通尺度作りを行った。このため、これまでのデータに、中学1年生494人、2年生451人、3年生432人の数学学力データを加え、更に小学校の4年生310人、5年生334人の算数テストの学力データを新規に収集して、最終的に小学校4年生〜中学校3年生の被験者総数8288人、テスト項目数790項目に達するデータを得た。このテストデータは、その多くが、項目反応理論の利用が可能となるように共通問題を含む等の編集を受けた上で収集されたものであり、その意味ではこれまでの最大規模のテストデータと言える。このデータをもとに算数・数学学力尺度の構成を項目反応モデルに基づきベイズ推定により行った。(このような多量のデータ、テスト版を同時に分析できるプログラムが存在しなかったため、その開発も行った)。その結果、各テスト項目の項目母数の推定値と被験者の能力母数の推定値を得ることができた。各学年ごとの能力母数推定値の平均は、小学校3年生から順に、-1.53、-1.04、-0.53、0.0、0.42、0.91、1.39となった(ただし6年生の標準偏差を1とする)。目的に示したように、新教育課程では、相対評価から到達度評価へと評価観の変更が期待されているが、その基礎資料としての共通尺度が構成されたため、各児童・生徒の算数・数学学力の発達をクラスの他の児童・生徒の発達的変化に係わりなく知ることが可能となった。つまり現在教育現場で強く求められている到達度評価的解釈を可能とする学力尺度を作ることができた。
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