研究概要 |
本研究は,わが国の伝統的地域社会に存在していた青年期発達を支援する社会システムや民族慣行の特徴と形態・機能を,発達心理学的・臨床心理学的観点から吟味することを目的とした研究である。初年度は,次の2つの観点からの研究を行った。 研究1「豊島と姫島における青年宿と青年期慣行の特徴と発達支援機能の比較研究」では,広島県豊浜町豊島と大分県姫島村にかつて存在していた青年宿の特徴や体験について回想的な聞き取り調査を行った。豊島の宿は約20年前になくなっているが,(1)現在でも当時の宿仲間や宿親との関係は続いている。(2)宿は職業修行の場ではなく,青年期心性の表現の場であった。(3)青年と宿親との関係は実親との関係とは異なる「ななめの関係」であった。姫島では,(1)大正時代に青年団が結成される前までは青年宿と娘宿が存在していたが,当時宿を経験した者は現存していない(未確定)。(2)青年団は「倶楽部」と呼ばれ,若者の社交・地域活動の場であった。(3)「夜這い」といわれる男女のグループ交際が伝統的に認められていた。 研究2「答志島における青年宿と青年期慣行の特徴と発達支援機能の実際」では,三重県鳥羽市答志島は,現在も青年宿(寝屋)が存在している(わが国唯一かもしれない)。本年度は寝屋子制度の特徴についての聞き取り調査と大漁祭(神祭)における青年の役割や他世代との交流についての参加観察を行った。現時点で詳細に報告できる結果は少ないが,次の点が明らかになりつつある。(1)過去には同じ宿に入る青年は年齢が異なっていたが,現在では学校と同じ学年ごとに分かれている。(2)中学卒業と同時に宿に入るが,島外の高校や大学,職場に通うこともあるため,週末にしか宿に集まれない。(3)祭りは青年団が率先して企画・準備・運営され,演芸会での出し物は宿単位で行われるように青年が地域社会の中で活躍する場が維持されている。
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