本研究は、わが国の伝統的地域社会に存在していた青年期発達を支援する社会システムや民俗慣行の特徴と形態・機能を、発達心理学的・臨床心理学的観点から吟味することを目的とした研究である。本年度は、次の2つの観点からの研究を行った。 研究1「豊島と姫島における青年宿と青年期慣行の特徴と発達支援機能の比較研究」では、特に大分県姫島村にかつて存在していた青年宿や倶楽部の特徴やそこでの体験と、青年が行っていた夜這いの習慣について回想的な聞き取り調査を行った。その結果、(1)かつては青年宿と娘宿が存在していたが、宿を経験した者は稲積地区の80歳以上の男性を除いてほとんどいない。(2)宿は戦前に倶楽部という公民館へと移行し、そこに青年たちは寝泊まりしていた。(3)宿は宿親のもとに集まるのに対して、倶楽部は青年たちだけが集まる場所であった。(4)「夜這い」は、性的関係以前の若い男女の社交活動であった。 研究2「答志島における青年宿と青年期慣行の特徴と発達支援機能の実際」では、三重県鳥羽市答志町答志に現存する青年宿(寝屋)の特徴についての聞き取り調査と、神祭や御木曳祭における青年の役割や他の世代との交流についての参加観察を行った。その結果、(1)現在、答志には15の寝屋があり、それぞれ職をもった一般家庭(寝屋親)が15〜26歳までの青年(寝屋子)を受け入れている。(2)寝屋親と寝屋子の年齢差は18〜44年と幅があるが、年齢がある程度近い方がよいという通念がある。(3)過去には姫島の夜這いとよく似た「娘遊び」という男女交際が地域の中で認められていた。(4)地域には年齢階梯に沿った年齢集団が存在し、ある程度独立性が保たれている。(5)毎年行われる神祭は多くが青年団によって企画・準備・運営されるが、20年に一度の御木曳祭は前回、前々回に青年の代表であった者が指導にあたる形で地域の文化伝承がなされている。
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