阪神・淡路大震災は地震の規模だけでなく、大規模な都市型の災害であった点が特徴的であり、きわめて多数の人々が同時に大きなストレス事象を経験していることが指摘できる。このために、通常の個別的・臨床的な専門的ケアに加えて、集団を対象とした講習衛生的な視点を持つ健康心理学的なアプローチが必要とされているが、わが国では、このための基礎的研究はほとんどない。PTSDと診断され、その後の生活に大きな支障を生じる場合、ストレスに暴露された犠牲者である本人が強い罪悪感をもっている。ここでは、大災害後の長期的な心身状態を決定する要因として、罪悪感経験があるという仮説に基づいて、震災に伴う罪悪感経験と、心身のストレス状態との関連を検討した。結果は、阪神大震災によって、何らかの喪失を経験をした者ほど強い罪悪感を示すことが多く、また、ストレス反応も大きい傾向にあった。したがって、罪悪感は集団全体の健康を増進する場合に重要な反応であることが示された。さらに、学校教師を対象として、罪悪感を含む4種類の感情語による自伝的記憶の鮮明さ、感情の強さと罪悪感の記憶の実態とその震災経験との関連を検討した。結果は、罪悪感を感じた時期としては震災当日や直後が多く、罪悪感を感じる対象としては、相手が深刻な被害を受けた人である場合と、家族や特定の知り合いである場合があった。罪悪感を感じる対象が深刻な被害を受けた人や亡くなった人である場合には、その内容として、自分が何もできなかったという無力感や絶望感が多く、長期的な不健康状態に結びつくものと考えられた。一方、家族や特定の人物に罪悪感を感じた場合には、実行可能なことがあげられ、その後に親密な対人関係を成立させる機能をもつものと考えられた。また、無力感は、罪悪感以外にも、自分自身に対する怒りとして表現された。
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