研究概要 |
教授心理学研究の立場から,平成8年度に引き続き,教科算数において児童が自主的に学習コースを形成することの学習効果を検討した。平成8年度には,小学校5年生を対象に「自主的に学習コースを形成する」群(実験群)と「通常の授業を展開する」群(統制群)の2群(各23名)をクラス別とし,2クラス間での比較を行なってきたが,5年次から6年次にかけてクラス替えがあったため,長期的な効果をみるという点では,被験者数および群間の適性次元の分布の均一性の問題を抱えながらの比較検討となった。平成9年度は,平成8年度の実験群の教師が1クラスに対し児童各自が自分なりのやり方や考え方を自由に発言し合えることに重点をおいて継続的に授業を行ない,その授業後のテストの分析をした。また,平成8年度中のデータの分析も続行し,あらたな視点からの検討も試みた。主な結果は次の通りである。 1.事前に測定した学力だけでなく,質問紙によって測定したメタ認知,算数に対する好嫌,学習ストラテジー等を適性として取り上げ,重回帰分析を行ない,授業との適性処遇交互作用を検討したが,事前に測定した学力の主効果が大きく,児童が自主的に学習コースを形成することによる効果という点では,期待したほどの効果は得られなかった。 2.「自主的に学習コースを形成する」群に期待した効果が得られなかった要因の1つには,児童の学習選択に対する態度がある。児童の学習選択理由と自由記述から,選択の力を高めることができなかったことがわかった。低学年の段階から,柔軟な教育環境で,自主的選択を効果的に行なえるだけの適性の育成をはかっていくことが重要であると考えられる。今後は低学年での研究を行なう予定である。
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