この研究ではビデオ画像を利用して住民の児童育成助成金に対する意見や態度を調べることにより、インタビューの現場では見過ごしていた、微妙なニュアンスをとらえることができた。一年目にインタビューやビデオ撮影等を多数行った。質的データを分析する中で、住民全体の集合的な意見や態度を知る必要が生じた。そのため、二年目に郵送調査を実施し、質的調査を補完した。具体的な研究テーマは、なぜ夫婦/女性が子供を持つことを決定したか、なぜ自治体が高額の出産奨励金を出すことを決めたか、その決定が夫婦の決定にどのような影響を及ぼしたか、を明らかにすることである。 出産は、基本的には女性の自由な意思決定による個人的行為である。しかし、それは当人だけでなく、パートナー、家族、親族、社会全体の運命をも左右する極めて重要な社会的な行為である。昨今の小子化問題に関する議論は、少子化傾向を将来の年金負担との関係でのみ考え、子どもの経済的価値しか見ていない。人間にとって子どもを作るというのは損得勘定を越えた行為であり、それ自体理由を問うことができない「聖なる行為」である。 収入、部屋数、親との同居、経済給付といった条件は出産に何らかの影響を及ぼしている。しかしそれは、100万円もらえるから子どもを作る、というような直接的なものではない。客観的条件は、子どもを作ることに関する親族、友人、地域社会の支持、母親へのねぎらいや称賛の念、人々の喜びの声、笑顔、このようなものに影響を与え、これらの非客観的要素が意思決定に影響を与えるのではないだろうか。多数の出産祝い金だけでは効果はあまりなく、祝い金に加えて、毎月、町役場が新生児とその母親に対してお祝いの会を催し、広報に写真と名前が載り、町を歩けば人々が赤ちゃんを歓迎するという雰囲気が伴った場合、はじめて祝い金の「効果」があらわれるのではないだろうか。
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